[00:01.52]実刑判決 [00:02.68]四角い小さな窓から、薄ら光が射し込む。 [00:07.22]コンクリートの壁に囲まれた薄暗い部屋の中に、うずくまったままの僕がいる。 [00:16.44]朝から夕方にかけて就労し、同じ灰色の服を着た大勢の人間の中で食事を済ませては、また、ここに戻ってくる。 [00:30.93]そんな毎日の繰り返しの中で、僕はただ呆然と日々を送っていた。 [00:40.17]強盗傷害罪。 [00:44.52]それが、僕の罪状だった。 [00:50.88]酔った勢いのつまらない喧嘩の末、僕は相手をナイフで刺した。 [01:00.76]そして、倒れた相手の背広の内ポケットからはみ出した財布を見つけ、それを抜き取って逃走した。 [01:10.74]相手を刺したからと言って、動揺したわけではない。 [01:15.51]金に気を奪われただけだ。 [01:18.78]それも、いつものことのように。 [01:22.53]しかし、あちこち逃げ回たものの、指名手配され、僕はすぐにも逮捕された。 [01:31.72]最初は単なる喧嘩で、金を奪ったのは出来心だったという、僕の主張はあっさり退けられた。 [01:44.52]相手が通りがかりの見知らぬ人だったため、金目当ての強盗傷害罪で実刑3年が確定した。 [01:55.89]幸いっと言っていいか、相手は重傷を負ったものの、命を取り留めた。 [02:05.25]でなければ僕は、一生この刑務所で暮らすことになっていただろう。 [02:11.64]後悔の念はない。 [02:15.67]相手も相当酒を飲んでいた様子だったから、その点ではお互い様だし、先に殴りかかってきたのは、あっちの方だ。 [02:27.29]盗んだ財布だって、中身は一万円札が2枚入ったきりだった。 [02:34.76]たっだの2万円…僕は苦笑した。 [02:42.52]バカバカしくて、笑いがこみあげてくる。 [02:46.54]しかし、そんな感情もすぐに消え、元の呆然とした自分に戻る。 [02:55.37]ふと考える、むしろ終身刑か、死刑にでもなった方がマシだったのではないか。 [03:05.80]どうせ俺なんか、諦めの気持ちの方が強かった。 [03:15.31]そうやって、ずっと生きてきたから。 [03:19.97]ふと、ボロ机の上に束になって重ねてある手紙を見る。 [03:27.82]兄からの手紙だ。 [03:30.83]手紙は一週間に一度の割合で、頻繁に送られてきた。 [03:38.26]面会を拒絶したせいだろう。 [03:41.64]僕は、兄にあうつもりがない。 [03:46.71]だから、僕たち兄弟の繋がりは、その手紙だけに託されていたとも言える。 [03:54.62]最初の頃は、中身を読んでいたが、そのうち、封を切ることも面倒くさくなって、ほうったままにしていた。 [04:06.76]「元気にしてるか。」 [04:11.92]「出所まで頑張るよ!」 [04:14.02]「体を大切にな!」 [04:17.06]いつも同じことばかり書かれていて、しまいには、読む気さえなくなった。 [04:24.90]それに、この半年、兄からの手紙は、ぷっつりと止んている。 [04:32.37]返事を一度も出していないせいかもしれない。 [04:37.80]どうせ向こうも、厭きれていることだろうと思い、気にも留めなかった。 [04:44.14]収監されて、そろそろ3年になる。 [04:50.52]出所の日が近づいていた。 [04:53.93]どうせ世間に戻っても、ろくなことはないから、別段その日を心待ちにしているわけではない。 [05:05.49]ただ、間違いになく迎えに来るであろう兄だけには、会いたくなかった。 [05:13.82]こんな惨めな姿を、見られたくない。。 [05:19.19]それが、最後に残された、僕のプライドだったからだ。 [05:26.36]